□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□    乙女高原ファンクラブ 公認  乙女高原メールマガジン 第098号 2004.3.31. 発行者:植原 彰 (乙女高原のある町・牧丘町在住) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・   ▲▼ も く じ ▼▲ NEW! 0.【ニュースニュース】 NEW! 1.【報告】 第3回乙女高原フォーラム           高橋佳孝さんのお話 その5 NEW! 2.【報告】高橋佳孝さんのお話 その6(最終回)     3.【募集】 第2期乙女高原案内人養成講座 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■   0.【ニュースニュース】 ●@草原保全の第1人者である高橋さんのお話をライブで「読める」ようにした連載 もいよいよ最終回となりました。今回は2話掲載したし,長いですよ。テープを聞き ながら文字入力するのもたいへんでした。高橋さんのお話は,当日使われたパワーポ イントの写真なども入れながら,乙女高原案内人の資料集に掲載する予定です。お楽 しみに。 ●A第2期乙女高原案内人養成講座の応募状況をお知らせします。あと10名ほど, 空きがあるそうです。まだ間に合います。まだの方,ぜひ,お申し込みください。ま た,お友だち等に養成講座をお広めください。よろしくお願いします。(詳しくはこ のメルマの下の方,「3」の項をご覧ください) 申し込み用紙が必要な方は返信し てください。すぐに送ります(郵送になりますが)。 mailto:xxxxxx@j-gate.net ●Bもうすぐこのメルマも100号を迎えます。思い返せば,「乙女の自然を守るため にはパソコン(ホームページやメール)が必要だ!」と,パソコンを買い,慣れない キーボードを叩いてメルマの0号を作ったのは,「乙女高原でもう草刈りが行われな くなる」「こうなったら,ボランティアを集めて,自分たちで草刈りやろうぜ」と, 乙女で初めて『乙女高原の草原を守る! 草刈りボランティア』を行った2000年11月 でした。  以降,メルマ誌上で「刈った草は持ち出した方がいいか?」「お公家さんのお墓と 呼ばれているのはきじ師の墓ではないか?」「乙女をエコミュージアムにしたら?」 「イタドリが1人勝ちしているけど」といった話題で活発に誌上討論も行われ,発行 者のぼく自身,すごく勉強になりました。今までいろんな「ゆれ」はありましたが, まがりなりにも道をはずさずに(?)乙女高原の保全活動が続けてこれたのも,この メールマガジンがあったおかげだと思っています。  メルマを出すことが大事なんじゃなくて,乙女の自然と人と自然との関わりが守ら れ,育まれていくことが大事なので,特に100号記念はしませんが,きりがいいし, いい機会なので,皆さんからご感想やご意見がいただけたら,うれしいです。 ------------------------‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐     1.【報告】  ●第3回乙女高原フォーラム・高橋佳孝さんのお話 その5●   ◆高橋さんのお話のもくじ(概要)◆   テーマ:草原の復活に向けて −草原の多面的価値と新しい活用の方向− 済1.草原は里山の自然である・・・(メルマ091号) 済2.草原は文化的遺産である・・・(メルマ092号) 済3.草原は豊かな空間である・・・(メルマ093号) 済4.草原は失われつつある・・・(メルマ094号) ●5.草原の価値が見直される・・・・・・・・・・・・・・・今回のお話 ●6.人畜一体総力戦で草原再生へ・・・・・・・・・・・・・・・今回のお話 (次項)  生物多様性の面からも,産業の面からも,草原は見直されてきています。  一つは,国立公園・国定公園といった自然公園の中には,指定植物というのがあり ます。公園の景観を形作っている植物は,無断で採取したりしてはいけないといった 規制がかかっていたりするわけです。そんな植物をリストアップしてみますと,指定 植物の中で草原性の植物が含まれる割合の高い自然公園は秋吉台,阿蘇久住,比婆, 北九州と・・・,西日本の自然公園なんですね。  すなわち,北海道あたりの自然公園は原生林を取り込んでいるわけですけど,本土 の国立公園・国定公園は相当部分,里山を取り込んでいるわけなんですね。指定の段 階で,すでに里山を取り込んでいるわけです。日本では土地の買い上げをしないで, 国立公園・国定公園の指定をしているわけですから,民有地や共有地がたくさん含ま れています。そういうところは,まさしく里山なわけです。  こうやってみると,国立公園であっても,二次的な自然を取り込んでいるので,こ れら二次的な自然をどのように維持していくのかという命題を背負っているわけで す。  第2に,畜産の話です。畜産は,今は,外国の餌に依存しています。在来の野草を 利用しなくなったんです。  ですが,じつは,在来の野草というのは,たとえば繁殖和牛の栄養要求量とぴった りの成分含有量をもっているんです。すなわち,牛を健康を飼おうとすれば,野草の 方がいいんだということで,最近,野草を餌として利用することが見直されてきまし た。  在来種の草原には,いろいろな種類の野草が生えています。このうち,牛が食べる 野草だけでも,年間に100種類以上になります。その中には,栄養価の高いものも あれば,ミネラル類の豊富もものもあり,また,漢方薬のような生理的な活性の高い ものもあるし,そういうものを選択的に食べることで,牛たちも健康に生きることが できるわけです。  人間の都合で作り出した改良草地とは全然意味合いが違います。改良草地というの は,栄養価だけの評価軸で草を選び,つくった草地でした。一見,効率がよさそうで すが、持続可能性や家畜の健康から考えると,野草は非常にいいんだということが分 かります。  第3にツーリズムの資源としての草原です。三瓶山に来た観光客にアンケートを 取ってみました。「旅行の行程の中で,あと,どこに行きますか?」と聞いたとこ ろ,「秋吉台」という答が最も多く,「草原に来た人はまた,草原を求めて行く」と いう傾向があることが分かりました。草原つながりといいますか,「草原の道」とい うか「牛の道」というか,そういうネットワークを構築することで,ツーリズムとか ボランティアなどの質を強化することができることが分かりました。  先ほど,人びとは広い空間にあこがれて来ているという話をしましたが,中国5県 の住民の方に「どのくらいの旅行費用だったら,三瓶山に旅行に行きますか?」とい うアンケートをとってみました。「旅行費用が2万円くらいだったら,50パーセン トの人が三瓶に行きたい」と答えていました。ところが,「三瓶が昔と同じような広 い草原だったら,3万円払っても行ってもいいよ」と答えている人がやはり半分くら いいることが分かりました。  草原化するだけで,ツーリズムの価値がこんなに違うということを,このアンケー ト調査は示しています。  阿蘇久住には年間1300万人の人が来るといいますが,その人たちは火山そのも のを見に来るというより草原を見に来る人が多いようですが,そのことを裏付ける データだと考えています。「旅行に伴う費用をどれだけ上乗せしても行きたいと思い ますか?」という意思決定を金額に直してみた,その差額が,まさしくツーリズムの 効果であります。  三瓶のような小さな草原でさえ、年間7億円のツーリズムの価値があると言われて います。(その5 終わり) ------------------------‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐     2.【報告】  ●第3回乙女高原フォーラム・高橋佳孝さんのお話 その6(最終回)● ●6.人畜一体総力戦で草原再生へ  今後,草原を維持しようと意思決定されたとしても,今は人手不足でたいへんな時 代です。どういうふうな形で,草原に価値付けをしていくかがポイントになります。  例えば,阿蘇久住の草原は火入れによって維持されている草原です。で,火入れを 行う際,一番たいへんなのが防火帯作りです。  阿蘇久住では9月の下旬くらいから,暑い時期なんですけど,防火帯の草刈りをし ます。そして,ススキがまだ青いうちに焼いてしまいます。そうすると,山火事にな らないで済むからです。そうやって防火帯を作っておいて,明くる年に火を入れるわ けですね。防火帯があってこそ,完全な火入れができるわけです。  ところが,今,牧野組合の組合員もどんどん減っているし,牛を飼う方も減ってい るし,草原を管理する人も減ってきているんですよね。ですから,防火帯作りができ ない状況になってきています。  そこで,地元でもいろいろと試行錯誤をしています。  一つはブルドーザーで土砂をザーッと押して,防火帯を作るというやり方です。と ても乱暴な方法ですよね。  これではちょっと環境破壊が激しいので,緑に被わせればいいんじゃないのと,ク ローバーの種をまいてグリーンベルトを作ったんですね。ところが,いつのまにかス スキが生えてきてしまい,元の状態に戻ってしまいます。持続性がないんですよね。  それだったら,土建屋さんは夏場,機械が空いているから,シャベルカーを借り て,草刈りをすればいいじゃないかと始めてみたんですが,急傾斜地になると,全然 役に立ちません。それに石や岩があると使えません。  そんな傾斜地でも使える無人のラジコンカーはどうかということでやったんです が,そうすると,ものすごくお金がかかってしまい,元手が取れない。よほど行政が 補助しないとならない状況です。(植原注:写真を見ると,サンダーバードに出てき そうな草刈りメカでした)  三瓶山では,すでにあるアイデアが実行に移されていました。「牛に防火帯を作ら せれる」というアイデアです。牛は今,昔のような働き者としての価値はなくなって きたわけですけど(植原注:たとえばトラックの役割(運搬),耕運機の役割で す),彼らは草食動物ですから,草刈り鎌である・・・とも言えるわけです。つま り,彼らに草刈りをやらせればいいと考えたのです。  今では,非常に機動性のある電気牧柵があります。たった一本のナイロンワイヤー を張るだけで,その中に電気が通っていて,牛たちは感受性が強いので,絶対に触ら ないんですね。こんな柵で帯状に牛たちを囲ってやると,その中だけ草を食べますか ら,秋までにしっかり食べ尽くしてくれ,自然に防火帯になるというわけです。  この取り組みは,いろんなことを私たちに教えてくれました。  一つは,火入れをしない草原は,枯れ葉が溜まりに溜まってしまうということで す。実際にその年に成長するススキやクズなどの野草の成長量と同じくらいの枯れ葉 が地表に溜まっています。それは,山火事の危険性があるし,新しい植物の芽目立ち を阻害します。当然,種の多様性も落ちてきます。いろいろな草花が生えてこなくな るわけです。それから,枯れ葉が溜まると,枯れ葉の上に落ちたたねが地表に到達す ることができないので,土の中の水分を利用することができません。ですから,発芽 が阻害されてしまいます。枯れ葉の中に含まれる化学物質が発芽阻害物質であること もあります。  ですから,草原に枯れ葉が溜まるのを放置すると,草原が森林に遷移するまでの間 に,草花がどんどん減っていくことは間違いないということがわかりました。  火入れをしていれば,枯れ葉が無くなって,地表が出て,芽立ちはよくなるんです が,ススキの生育がやたら旺盛なので,いろんな昆虫の蜜源となるような草花,見た 目も美しい植物というのは,じつはなかなかススキに勝てなくて,やられてしまう傾 向があります。これはもちろん,条件によって違います。西日本の場合は雨が多くて 温暖ですから,ススキの成長量はきわめて大きく,ススキが1人勝ちしてしまいま す。これが,霧が峰や乙女高原のような条件の悪いところでは,ススキ自身の成長が 悪いので,一人勝ちにはならないかもしれないんですけど,多くの場合は,ススキの 1人勝ちという問題が生じています。  放牧すれば,上も下もないから,火を入れても安全というわけです。  人件費で見た場合,牛を使えば,今までのような防火帯の作り方の1/10の人件 費でできることが分かりました。つまり,同じ費用で,10倍の面積の草原が維持でき るということです。  ススキがあるところ(草原)に火を入れた場合の温度と,防火帯が燃えているとき の温度を比べてみると,防火帯のほうはチョロチョロと火が燃えている程度で,ずっ と温度が低く,安全に火入れをすることができます。  三瓶山では牛に防火帯を作らせる方法を「モーモー輪地(わじ)」と名前をつけたん ですけど,「輪地」というのは阿蘇地方の防火帯の呼び方です。これは今,秋吉台に も普及しています。ここには岩がたくさんあって,人が草刈りをすると,草刈りの機 械が岩にあたって足を切るなど,必ず事故が起きます。ところが,牛たちは全然平気 です。  阿蘇では環境省が大々的にバックアップして,いろいろな牧野組合がモーモー輪地 を取り入れています。47キロの防火帯が牛によって作られています。  こういう牛の機能って,じつは里山の技術なんです。耕作放棄地があちこちで,ど んどん増えています。放棄地が増えると,そこがイノシシのすみかになって,鳥獣害 も増えていきます。カメムシをはじめとする害虫の温床にもなります。また,山火事 の危険も増えます。また,草に飲み込まれそうな藪というのは,人の住もうという意 欲を失わせてしまい,過疎化を助長してしまいます。いろんな意味で問題なんです。  ところが,さっきお話した簡易な電気牧柵を使って牛を放すことにより,ものの見 事にきれいにしてくれます。  耕作放棄の水田や雑木林の下草刈りにも利用されています。  放牧だけでなく,火入れを新たに行うことによって,草原の価値を高めたところも あります。北海道の小清水原生花園というところなんですけど,ここには線路が通っ ていて蒸気機関車からの野火が生じたり,あるいは牛や馬の放牧場でイネ科の草をあ る程度押さえていたので,草花がたくさん生えていたわけです。それをしなくなっ て,花がどんどん減っていったんです。それを再現する方法として,今,火入れとい う方法を実験的に行っています。効果が非常にあるということが分かってきました。 それを今,実用化に向けて,考えています。  放牧によって守られる草花としてオキナグサがあるという話をしましたが,放牧し たところと放牧していないところでは,株のサイズがまったく違い,繁殖個体も大き いということが分かりました。ある程度,草を押さえてやることで,小さなオキナグ サの生育条件がよくなることがわかりました。  一方,草の利用をあまりにも強くやりすぎると,すなわち,牛の餌場としてだけ考 えていくと,ムラサキセンブリのように,逆に減っていく植物もあります。過放牧を 続けることによって,絶滅に瀕してしまうということです。オミナエシやマツムシソ ウもそうです。  オキナグサとムラサキセンブリの例から,そこそこの利用の仕方をする,あるい は,うまく季節によって変えてやらないと,放牧がツールとしてうまく機能しないと いうことがわかりました。  今度は,草刈りについて見てみましょう。  ススキがうっそうと生えているような草原では,人が草を利用する,つまり,刈り 取ることによって,ヒゴタイ,ハナシノブのような草が生えてきてくれます。  草を利用するということは,枯れ葉も持ち去るわけでして,こういう草の芽立ちに とっても,決して悪いことではありません。また,持ち出すいうことは,養分を収奪 することですから,生産とか地力の面からはマイナスになってしまうわけですが,強 い植物が1人勝ちしないためには,つまり,草花の共存にとっては,逆に有利になっ てきます。  すなわち,管理の目的,保全の目的によって,草刈りの方法もかわってくるという ことです。  茅場のように成長のよいススキがたくさん欲しいということになれば,養分の収奪 のない時期に草刈りをすればいいわけです。ですから,冬,完全に枯れきった時期に 刈るわけです。  牛や馬の餌として,ある程度の栄養価が欲しい場合は,まだ青味が残っている時期 に刈らないといけないわけです。そうすると,チッ素やリンといった養分を多少は収 奪しています。光合成で得られた養分が地面の下の貯蔵部分に蓄えられてはいるんで すけど,まだまだ成長に使われていて,9月ころの草刈りだと,ダメージがあるわけ です。ですから,元に戻すためには1年休ませるといった工夫を,昔の人たちはやっ ていたわけです。  ススキなど多くの植物は,春先は地下部にあるエネルギーを利用して葉っぱを出し てきて,それによって,光合成をして,夏場に最大の成長量を得るわけです。秋にか けて,今度は地上部のエネルギーを地下部に転流させていって,冬を迎えて,次の春 に備えるわけです。  何もなければ,このような四季の生活サイクルを持っているわけですが,例えば, 一番成長量の多い夏場は,地下部の蓄えも一番少なくわけですから,刈り取りを行う と,わずかに残された地下部のエネルギーを利用して秋に成長しなければなりませ ん。秋の成長はたいしたことではないので,冬の間の蓄えを残すことができず,貧弱 な状態で,次の年を迎えなくてはならなくなります。これを繰り返せば,この植物は やがて絶えてしまいます。 この植物がススキであるとすれば,餌用に秋に刈ったら,1年くらいは休ませる必要 があります。  ところが,冬,地下部にほとんどのエネルギーが貯蔵されている時期に刈れば,ダ メージはそんなに無いわけです。ですから,この時期に刈ることは,毎年,その時期 に利用することが可能になるわけです。  先ほどお話したように,放置しますと,ほとんどススキの1人勝ちになってしまう わけです。ですから,少なくとも,茅場利用を想定して,秋放牧を組み合わせるだけ で,種の多様性はかなり高まります。ススキばかりの草原を,お花畑のような景観に 変えることもできるわけです。当然,放牧ではなく,刈り取りでもいいわけです。人 手が少なくなっているので,実験的に放牧という方法でやってみました。  今,畜産的な立場から言うと,有機的な農産物って関心が高いですね。そういう意 味からも,外国からの餌,あるいは化学肥料や除草剤を使って育てた餌ではなく,自 然の餌を使って牛乳を生産することが、非常に脚光を浴びています。  こういう取り組みをしている人たちは考え方が非常に環境保全型で,飼う頭数をあ まり増やさないとか,自然な飼いかたをするとか,化学肥料や除草剤は使わないと か,自分たちで規定を作っているところもあるぐらいです。  例えば,経験的に1ヘクタールあたり2頭としているところがありますが,これは とてもいい線いってます。ヘクタールあたりの家畜の頭数と地下水の汚染のグラフを 見ると,だいたい2頭を越えると,地下水汚染の許容範囲を越えて,地下水に影響を 与えてしまいます。経験則が立証されたということです。  三瓶では,健康に草原で育った牛を学校給食に回すということができました。BS Eの発生以来,学校給食から牛肉は排除されたんですが,いち早く回復できたのは, こういう生態系に即した飼い方をしている牛たちでした。流通量はわずかかもしれま せんが,草原や草原を維持していく畜産という生業を見直すいい機会になりました。  阿蘇久住でもそういう動きがあります。BSEの発生以来も牛肉の消費はあまり落 ちていないんです。こういう壮大な草原を利用した牛たちが実際にいるからなんです ね。  もう一つ考えなくてはならないのは,今,稲わらというのはほとんど利用されてい ないという現実です。ほとんど捨てられているだけなんですよね。野草も同じです。 昔は非常に価値のあった草資源ですが,今はほとんど利用されていません。  もう一度,見直してほしいのは,循環型農業が昔は行われていたということです。 それは,場所によっては,屋敷林や雑木林に依存していますが,草地に依存していた ところもかなりありました。しかも,野草や稲わらを利用して家畜を飼うサイクルっ て,有機農業そのままなんですよね。  昔は,草っていうのは,飼料でもあり,燃料でもあり,堆肥の原料でもありまし た。いろんな用途があったんですね。それに応じた利用の仕方もあるし,牛舎の構造 もあったし,草を運搬するためにグラス・ロードと言われるような干草運搬のための 道が作られたりしました。  じつは,その野草資源を、今でも利用している人たちがいるということが、分かりま した。ほとんど利用価値がないと思われていたものが,じつはトータルで考えると非 常に有効であることが農家の取り組みによって明らかになっています。酪農家にとっ て,野草は低コストな疎肥料資源です。イチゴ,トマト,アスパラガスなどいろんな 作物を作っている農家が堆肥用に野草を利用しています。しかも,利用している農家 は阿蘇郡のトップの農家なんです。すなわち,一番お金をもうけている農家というの は野草を利用しているということがわかったんです。  具体的に調査に行ってみますと,ここは高原野菜の産地なんですが,畑の隣に採草 地があって,野草をすぐに利用できるようになっています。畜産農家が丸く梱包した 草を土作りに流通させているところもあります。トマト農家が野草のロールを確保し て,鶏糞や牛糞を混ぜて,良質の堆肥を作り,ハウスで生産しているところもありま した。アスパラガス農家なんて,休耕田をすべてススキの草原にしたいとおっしゃっ ていました。  野草には,このような隠れた需要があったとういことです。  かやぶき屋根の資材も不足しているんです。かや屋根用にススキを流通させるの が,じつは,一番高くススキを売ることができるんです。  もう一つはエネルギー源としての利用も考えています。  ヨーロッパではススキに早くから注目していて,ススキのたねをたくさん持って帰 りました。そして、エネルギー作物として改良しています。  さっきお話したように,地下部にエネルギーが溜まった段階で刈り取れば,餌とし てはダメかもしれないけど,堆肥の原料として,あるいは燃やすためには何の問題も ないわけです。ですから,この時期に刈ることで,持続的に草原を維持しながら,資 材の利用が可能になってくるわけです。  バイオマスエネルギーの優れた点は,炭素を循環させていて,石油エネルギーのよ うに炭素を放出するだけではないところです。  草資源の多段階(カスケード)利用を考えています。一つの草資源を,今までは餌 としてしてだけ,あるいは,堆肥としてだけ・・・というように一元的な価値付けを していたんですけど,そうではなく,価値の高いものから順番に利用し直していけば いいと考えています。  餌に使えなければ,エネルギー源として使えばいい・・・というような使い方で す。  オランダで,いろいろな草を燃やして電力を得た際のコストを比べてみると,栽培 してない(野草である)ススキは非常に魅力のあるエネルギー源植物であることが分 かりました。  もちろん,日本で,ススキだけを燃やして電力を得るためには大量のススキが必要 なので,それは無理ですが,バイオマスをガス化してメタンを生産するといったプラ ントが研究されています。  阿蘇で想定されているのは,稲わらや河川敷の草,牧野の野草など,草資源はいろ いろなところから入ってきますので,それらを一箇所にまとめて,値段の高い順に, 順順に利用していったらいいじゃないかと考えています。質の悪いものはすぐに堆肥 に持っていけばいいし,質のいいものは家畜の餌として利用してもらえばいい。もっ といいものは,ペット用の飼料として高く買ってもらうという手もあります。茅葺用 もあります。で,いよいよダメとなったら,メタン・メタノールの生成用にバイオマ スエネルギー源として利用します。とにかく,一つ一つを無駄にしないで,なんとか 利用していったらおもしろいんじゃないかと考えています。だって,草資源はほとん どタダで生産できますから。  最近のバイオマスのブームに乗って,私たちのNPOでは、建てたグループホーム にバイオマス・チップ・ボイラーというものを導入しました。木屑を利用します。順 調に稼動しています。これは,荒れ果てた里山を保全してレクレーションの場にしよ うとか,たくさんの草花の生える空間にしたいという願いで管理したとしても,出て きたものの利用の価値がなければ,運動の拡がりはないわけで,なんとか雇用も生み 出すということも考えて,将来的に有望視したいと思います。このボイラーが稼動す ることによって,雑木林がきちんと管理されるようになり,明るいところが好きや植 物も復活してくることでしょう。  乙女高原ファンクラブでも素晴らしいボランティア活動をしているわけですけど も,今,国立公園・国定公園の中でも,公園管理団体という組織が作れるようになり ました。民間のNPOを中心に,その人たちが国立公園を管理していくというやり方 です。  第1号として,阿蘇グリーンストックが認証されています。今後は,このような形 でNPOが自然を守る上で,国立公園・国定公園の中でも重視されるようになってい きます。  畜産だけを想定しても,草地や林地というものを利用してそれぞれ経営しているわ けですが,その中に「加工」というユニットを持ってこないと,利用価値がないとい うことになってしまいます。例えば,牛乳だったら,牛乳だけでやるんじゃなくて, 条件の不利なところほどチーズにしたりバターにしたりすることで,都市との交流も できるし,都市からは需要の情報も入ってくるということです。  こういう,一つの農業振興システムというのが大切だと考えています。  もちろん,畜産以外でも同じです。有機農業の里というのもあるかもしれないで しょう。土づくりに野草といった資材を利用しながら,畜産ともリンクしながらやっ ていくという方向性が大切なんだと思います。また,無駄と思われる資源も、最終的 にかやぶきに利用することもできるし,エネルギーを取り出すこともできる,そうい う,いろんなつながりをこれから考えていかなければならないだろうと思います。  そのために何が必要かとういと,一つは価値観です。環境保全とか安心・安全と か,最近流行のスローライフというのもあるかもしれない。さっきお話した文化とい うのもとても大切でしょう。こういうものを地域の中でどう醸成していくか?  もう一つは新規参入が成り立たないと,なかなか活性化はできません。そういった 新しいものを受け入れる価値観を自分たちが持つことが必要です。  もう一つは,そこで活動する人たちが,最終的に安心して暮らせる環境があるかど うか。福祉や教育の環境ですね。それにリンクしていかないと難しいだろうと思いま す。  そうなると草を刈るとか草を管理するとかだけでなく,農村自身の活性化の中に, これらを組み入んでいかなければないないということになります。  乙女高原は5ヘクタールという,たいへん小さなお花畑だとお聞きしていますが, 決して大きいことがいいことではなくて,小さくても特徴のある活動をすれば,全国 の草原再生の発信地になれると思いますし,県内外からたくさんのボランティアが集 まるというのはなかなかないので,一つのモデルとして,今,非常に注目していま す。  ぜひ,これを地域振興に発展するような形で,うまく取り込んで,全国の草原保全 に悩む自治体やそういう人たちに,情報を発信していっていただきたいと思います。 (完) ------------------------‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐     3.【募集】  ●第2期乙女高原案内人養成講座●  以下は概略の紹介です。詳しくは  http://www.otomekougen.npo-jp.net/2004_interpreter.html 〇主催:乙女高原ファンクラブ 〇期日と会場  第1回 4月18日(日) 牧丘町総合会館 牧丘町窪平(文化ホールの近く)  第2回 5月23日(日) 乙女高原グリーンロッジ 牧丘町北原(乙女高原)  第3回 6月6日(日) 乙女高原グリーンロッジ 牧丘町北原(乙女高原) 〇定員:30名で,先着順。   申し込みの受け付けは3月1日午前10時から始めます。 〇費用:講習会費用は3回分合計で1000円。  登録する際にはさらに登録料2,000円が必要。 ------------------------‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ ご意見/ご感想/情報はこちらに・・・ mailto:xxxxxx@j-gate.net バックナンバーをご覧になりたかったら・・・・ http://www.otomekougen.npo-jp.net/mail_mag/ 乙女高原.ファンクラブのホームページは・・・・・ http://www.otomekougen.npo-jp.net/ 「ウエちゃんの乙女高原自然観察記」は・・・  http://www.otomekougen.npo-jp.net/observ/observ_top.htm ※この号は,397人にBCCでお送りしています。「乙女高原メールマガジン」は 希望する方に無料で配信しています。まわりにご希望の方がいらっしゃいましたら, アドレスとお名前を「返信」してくだされば,メール配信のリストに加えます。  お互いに顔の見えるような関係の中でメール配信したいので,あえて自動配信の メールマガジン用ホームページ等は利用しておりません。 以上。