file No. 0306
Date 2003/8/21
タイトル 夏休み自由研究「アサギマダラ」


夏休み後半になると,乙女高原ではたくさんのちょうちょの姿を見かけるように なります。その中でも,ひときわ目立つのがアサギマダラというタテハチョウ科 マダラチョウ類のちょうちょです。

大きさはアゲハよりひとまわりだけ小さいくらい。
上の羽根(前翅)は淡い青紫,下の羽(後翅)は赤茶色です。この青紫は見事な アサギ色(浅黄または浅葱・・・ネギの若葉の色です)色。それで,アサギマダラ という名前です。
羽根にはすりガラスみたいな「窓」がついています。この「窓」は半透明で,羽根を 開いた時には,後の風景がぼんやり見えます。あまり近寄ることはできませんので, 双眼鏡を使うと,「羽根のすりガラス」がよく観察できます。

体のうち,花に止まっているときによく見えるのは胸から前なのですが,見事に 水玉模様です。胸板が厚く,マッチョな感じがします。

ヒラヒラと優雅に飛んでいるアサギマダラですが,なかなかどうしてたくましく, 長距離の渡りをすることが知られています。
アマチュアの人から研究者までが,このちょうの渡りの調査をしています。 どのようにしているかというと・・・
まず,アサギマダラを虫取り網で捕まえます。それから,羽根がとても丈夫なことを いいことに,この羽根に油性ペンで捕まえた場所等がわかる記号を直接書き込んで, 再び逃がします(この作業を「マーキング」と言います)。家に帰ってから, 捕まえた場所,書き込んだ記号などのデータをインターネット上で報告します。
「アサギネット」というホームページで,調査方法の説明とともに,それらの 情報の取りまとめと公開をしています。

      http://www2h.biglobe.ne.jp/~pen/asaginet000.htm
      

もし,羽根に記号が書いてあるアサギマダラを捕まえることができたら,その記号を メモしておき,家に帰ってからインターネットで調べれば,どこで,いつ, マーキングされたものかがわかるというわけです。
このホームページによると,長野県の美ヶ原でマーキングされたアサギマダラが, なんと沖縄本島で捕まった例があるそうです。
8月24日に乙女高原でお会いした静岡県三島市の谷川さんは,乙女高原と焼山峠で それぞれ10頭ずつの(ちょうちょなどの昆虫は,正式には1頭・2頭・・・って 数えるんですよ。牛みたいですね)アサギマダラにマーキングをし,アサギネットに 報告されたそうです。記号は「03HT004乙女」から「03HT023乙女」 だそうです。このアサギマダラがどこで見つかるでしょうか? どこか遠くに 飛んでいくのでしょうか? なんかワクワクしますね。
アサギマダラのマーキング調査,乙女高原でもやってみたいですね。いかがですか??

さて,前置きというか,わき道が長くなりました。これからが本論です。

ぼくは,アサギマダラというと,すぐにヒヨドリバナが連想されます(この写真に 写っているのがヒヨドリバナです)。正直言って,このちょうがヒヨドリバナ (ヨツバヒヨドリも含む)以外の花に止まっている姿は想像できないほどです。
ところが,8月21日に乙女高原に行った時,アサギマダラがマルバダケブキの花に 止まっている姿を目にしました。それもかなりたくさん。一つの株に5頭も止っている 姿さえも見ました。

「なんだ,ヒヨドリバナ以外にも止るんだなあ」と思いながら,アサギマダラ ばかりを見て歩いていたら,面白いことに気付きました。

この2つのアサギマダラの写真を見比べてみてください。

アサギマダラという同じ種類のちょうであることには間違いないのですが, どこかがビミョーに違うでしょう?
羽根の下のほうに黒ずんだしみみたいなのが見えるのがオスで,羽根全面が 茶色なのがメスです。

「おもしろいなあ」と思ったのは,なんとなくですが,ヒヨドリバナに止って いるのはオスばかりで,マルバダケブキに止っているのはメスばかりのような 気がしたことです。 「思っている」だけでは正確さに欠けますから, ちゃんとした(といっても,「ちょっとした」ですが・・・)調査をして みることにしました。

乙女高原の遊歩道のうち,「森のコース」をゆっくり歩きながら,見られた アサギマダラがどんな花に止っているかを全て記録しました。アサギマダラの ラインセンサスです。遊歩道から遠く離れているちょうは双眼鏡で確認しました。

●アサギマダラのラインセンサス●
2003年8月21日 天気はれ 11:35−11:55 乙女高原・森のコース遊歩道(上から下へ)
ヒヨドリバナマルバダケブキ
アサギマダラ・オス

アサギマダラ・メス
14

このほかに飛んでいるアサギマダラも2頭いましたので,たった20分間のお散歩で, 合計37頭ものアサギマダラを見かけたことになります。まさにアサギマダラ天国ですね。

さて,データを,まず花のほうから見てみましょう。ヒヨドリバナには3:1の割合で オスが多く,マルバダケブキはだいたい3:5でメスのほうが多くきていました。 ヒヨドリバナにはやはりオスが多くきていたのです。
次に,データをオス・メスから見てみましょう。オスはヒヨドリバナもマルバダケブキも 同じように来ていますが,一方,メスについてみると,マルバダケブキの方がダンゼン 人気なのです。
なんかおもしろそうなので,もう一度,ラインセンサスをしてみました。すると・・・。

●アサギマダラのラインセンサス パート2●
2003年8月21日 天気はれ 13:47−14:03 乙女高原・森のコース遊歩道(上から下へ)
ヒヨドリバナマルバダケブキ
アサギマダラ・オス
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アサギマダラ・メス

今度は,メスはマルバダケブキのほうがちょっとだけ人気。でも,オスはヒヨドリバナの 方が大人気でした。

二つのラインセンサスの結果を合計すると,ヒヨドリバナに来ていたアサギマダラ31頭の うち25頭(81%)はオスでした。マルバダケブキに来ていたアサギマダラ21頭の うちオスは12頭(57%)で,オスメスともほぼ半々だったのですから,マルバダケブキは オスメスどちらにも好かれているけど,ヒヨドリバナについては圧倒的にオスに好かれて いるという傾向がありそうです。

図書館でアサギマダラの本はないかと探していたら,佐藤 広・他『旅をするチョウ』 (福音館書店・月刊たくさんのふしぎ 2002年10月号)を見つけました。子ども 向けの本ですが,アサギマダラのマーキングのことが詳しく載っていました。
で,作者の佐藤さんもアサギマダラのオスばかりがヒヨドリバナに集まっていることを 不思議に思っていました。
佐藤さんは,家に帰って調べてみたそうです。「アサギマダラのオスには,においを使って メスを誘う性質があり,においのもとになる物質をヒヨドリバナなどの蜜から作ります。 そのため,ヒヨドリバナの咲いている時期には,オスがたくさん集まってくるのだそうです」 とありました。

「アサギマダラといえばヒヨドリバナ」というぼくの印象は,あながちいい加減なもの ではなかったようです。

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