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      今年は雪が少なかった・・・とはいえ,2004年3月26日の乙女高原はまだまだ雪の中でした。 
      乙女の草原に続く遊歩道を歩いていると,「クエックエックエッ・・・・」と,なんて形容すれば
      いいんだろう・・・「生まれたての怪獣の赤ちゃんがたくさんいて,大声で鳴いている」といった
      感じの声が聞こえてきました。 
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      さっそく声の聞こえる方に歩いていくと,湿地の水面が波立っています。カエルたちに違いありません。
      近寄って写真を撮りたかったので,向こう岸に渡り,近づいたら,・・・声も止んでしまい,
      カエルたちの姿もまったく見られませんでした。どこかに隠れてしまったに違いありません。 
      そこには卵が4つあったので(※),とりあえず,写真に撮っておきました。「トコロテン状」ではなく
      「イクラ状」の卵塊だったので,ヤマアカガエルに違いないと思ったのですが,ぼくの知っている
      ヤマアカガエルのたまごとは違って,粒々がなんとも白っぽいし,ゼリー状のブヨブヨも少ない感じがしました。
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      ※正確に言うと,「卵塊が4腹分」となります。カエルの卵は1頭のメスからまとまって産み落とされるので「卵塊」。一つのかたまりが1頭のメスから産み落とされたと考えられるので,かたまりが4つあると4「腹」分とカウントされます。
       
      どうしてもカエルの写真が撮りたかったので,その場でジッと待つことにしました。雪の上で身動き一つせず,
      じっと立っていたのです。ちょっとでも足を動かせば,その震動が伝わってしまい,カエルたちは
      出てきてくれないでしょう。10分ほどすると,水底の落ち葉が動き,カエルが一匹,顔だけ出してくれました。
      写真を撮ろうと思って,ポケットからゆーーーっくりとカメラを出しました。彼が(彼女かなあ?)
      警戒心を持ったら,また,隠れてしまうと思ったので,かなりゆーーっくり出したつもりなのですが,
      ぼくがカメラのスイッチを入れる前に,彼は再び落ち葉の下に隠れてしまいました。 
      こんなにこちらの動きに敏感なら・・・・と,今度は,立って,カメラを構えた状態で,
      ジッと待つことにしました。待つこと20分(最初からだと30分),さっきとは違うカエルが
      落ち葉の下から出て来て,しかも水面から上に顔を出しました。でも,体は落ち葉の下に隠したままです。
      ぼくは何枚もカメラのシャッターを押しましたが,今度は逃げませんでした。
       
       
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      そのうち,そのカエルがすっと出て来て,水面に浮かびました。体の全体が見えます。またまた10分ほど
      我慢していると,1匹2匹とカエルが水底から出て来て,水面に浮かびました。そして,
      クエックエックエッ・・・と鳴きながら,別のカエルの上に乗ろうとします。が,すぐにそれをあきらめ,
      また,別のカエルのところへ・・・。という行動を始めました。
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      こうなったら「カエル合戦の火蓋は切って落とされた」って感じです。10匹,20匹,・・・と
      カエルの数は増えていき,最終的には,ぼくのすぐ足元で,30匹ものカエルたちが組んずほぐれずの
      大乱闘を始めました。ぼくの右側からもカエルたちの声がたくさん聞こえていましたから,少なくとも
      そこに50匹はカエルが来ていたと思います。
      
      下が湿地の一部に集まっていたカエルの全体像と,鳴いているカエルの写真です。鳴いているカエルの
      両頬が膨らんでいるのが分かりますか? ヤマアカガエルはアマガエルのように鳴く時にのどの1箇所が
      膨らむのでなく,両頬の2箇所が膨らむんですね。
       
      
      ぼくは夢中でシャッターを押しました。午後2時半ころでした。日が翳り初めていたので,自動的に
      フラッシュがたかれてしまいましたが,カエルたちは動じませんでした。 
      フラッシュを多用したせいか,デジカメの電池が切れてしまいました。しかたがないので,
      ゆーーーっくりと腕を動かし,デイパックの肩紐をはずそうと思ったら,それだけで,カエルたちは
      すぐに鳴くのを止め,まるでクモの子を散らすように水底の落ち葉の下に隠れてしまいました。 
      一見するとなんの変哲もない,ただの湿地。でも40分我慢したら,足元で,こんな自然のドラマを
      垣間見ることができました。やっぱりジッと待つことって大切なんですね。 
      それに,自然には年に何度か「お祭りの日」があるんだけど,何度も通わないと,その「お祭りの日」に
      運良く出会うことはできないんだなあとも思いました。だって,ヤマアカガエルのカエル合戦には初めて出合ったんですもの。
       
      帰り際に見てみると,カエルの卵は,あきらかにさっきと違って見えました。見慣れたヤマアカガエルの
      「イクラ状」卵塊だったのです。さっき見たのはホントに産みたてホヤホヤの卵だったんですね。
      「今年のヤマアカガエルの産卵初日は3月26日!」と,胸を張って言えるなあと思いました。
       
       
      
      この日,ぼくは大きなドジをしました。せっかくデイパックの中にデジタル温度計が入っていたのに,
      肝心の水温・気温を計るのをすっかり忘れていたのです。 
      残念でならず,一週間後の4月3日,ふたたび乙女高原を訪れました。たった1週間の違いですが,
      乙女では急速に春が進み,草原にはほとんど雪が見られませんでした。 
      湿地も同じで,もう白いところが見つかりません。
       
      
       
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      さて,カエルの卵はどうなっただろう?と探してみて,びっくり。湿地の一部がだいぶ干上がっていたのですが,
      そこにあったカエルの卵がかなり奥まで凍っています。さしずめ「カエルの卵シャーベット」といった感じです。
      ぼくの指の先の部分は,かなり凍っています。
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      心配してまわりを探してみましたが,シャーベットになっていたのは,この4つ(5つ?)だけで,
      他の場所の卵は水がなみなみとあって,表面の一部がシャーベットになっているのはありましたが,無事でした。
      一部,卵のかたまり同士がくっついていて,何腹分か分からないところもありましたが,最低でも湿地全体で
      14腹分のヤマアカガエルの卵塊がありました。
       
       
      
      1週間,ずっと気になっていた温度を計りました。午前11時の気温9.2度。 
      水温はというと,場所によって違いすぎ,どう記録していいか分かりません。 
      流れている水はどこも12度程度でした。 
      止っている水は,日なたで,しかも底が浅い(水底まで2センチ)ところが15.6度。 
      日陰で深いところ(水底まで5センチ)は4.9度しかありません。 
      卵塊の中に温度計の電極を突っ込んで,いろんな箇所で計ってみましたが,
      最低10.4度,最高14.3度でした。 
      卵が産まれている底の枯れ葉や泥などの堆積物の中にも突っ込んでみると,
      4.4度しかありませんでした。そこは水底まで3センチ,さらにその下10センチ
      (合計,水面から13センチ)の温度です。 
      このように,湿地の水の中は,ほんの1センチでも違うと,温度もかなり違って
      しまうことがわかりました。自ら動くことのできないカエルの卵にとっては,
      どこに産みつけられたが,まさにその後の人生(蛙生)を決めてしまう重大事なんですね。
       
      さて,大きな疑問が一つ。今まで毎年,ヤマアカガエルの卵は湿地の最上部
      (かつて手塚小屋が建っていた脇)でしか見つかりませんでしたが,今回は遊歩道の
      木橋より上流では一つも見つからず,木橋より下の湿地でカエル合戦が見られました。
      カエルたちは,どうして産卵場所を引っ越したのでしょうか? 
      カエルたちが引っ越した理由,かいもく見当がつきません。
       
       
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